基礎知識
商標には、出所表示機能・自他商品等識別機能・宣伝広告機能という3つの機能があります。
出所表示機能とは、その商標を付した商品の出所が誰であるかを表示する機能をいいます。自他商品等識別機能とは、その商品に自己の商標を付すことによって他人の商品と区別する目印の役割をする機能をいいます。宣伝広告機能とは、商標の使用によりその商標に化体した信用力が顧客を引き付ける機能をいいます。
先願商標がなくても登録できない商標
出所表示機能がない商標は、商標機能の第一を有しないため、始めから出願が拒絶され、登録されることはありません(商標法3条1項)。
出所表示機能がない商標は、普遍的に使用されている商標ですので、もし独占的に使用できるなら、宣伝広告機能は多大であるため、あわよくばとの思いで出願されることが多いのですが、今まで誰もが普通に使用していたものが突然使用できなくなってしまっては世の中が混乱してしまうので、登録できないことになっています。
自他商品等識別機能がない商標は、出所表示機能を有しているものの、他人の商標と似ていて区別がつかないということなので、先願主義により、最先の出願人のみが登録を受けることができます(商標法4条1項11号、8条)。
ただし、他人の商標が特許庁に出願されていない場合であっても、全国的に知られている商標であれば、競業秩序の維持のために、他人の未登録周知商標に類似する商標の登録を受けることはできません(商標法4条1項10号)。
宣伝広告機能がない商標は、すなわち、まだ使用されたことがない商標ですので、顧客吸引力がないため商標の価値はゼロではありますが、先願主義の下、一日でも早く出願した方が良いため、出願に際して宣伝広告機能の有無にかかわらず登録を受けることができます。
宣伝広告機能がない商標は、登録することが容易ではありますが、現時点で価値がないため、出願されることは少ないと思います。しかし、ある程度使用を継続して顧客に知られるようになってから出願した場合、類似の先願が見つかると、将来を見越して使用の継続を断念せざるを得ないため、できるだけ早くに商標調査し出願していただきたいと思います。
登録があっても他人が正当に使用できる商標
商標権の範囲は、商標登録について指定商品・指定役務と同一範囲についての使用権と、商標登録の類似範囲について指定商品・指定役務と類似範囲についての禁止権とから成ります。禁止権の範囲については他人の使用を排除する結果、事実上の使用権を有します。
商品の品質等を普通の方法で表示する商標
出所表示機能がない商標は、商標機能の第一を有しないため、始めから出願が拒絶され、登録されることはないと前述しましたが、間違って登録される場合もあります。この場合、登録異議申立てや登録無効審判で登録が取り消されることが期待され、また、登録無効審判を請求しなくても、登録を無効にすべきものと認められれば、裁判上、商標権を行使することはできません(準特104条の3第1項)。
しかし、登録後5年を経過すると、継続使用により一定の信用が化体し、瑕疵が是正されたとして、登録無効審判を請求できなくなります(商標法47条)。
この場合であっても、今まで誰もが使用できていたものに独占排他権を与えるべきではないため、商品の品質等を普通の方法で表示する商標には、商標権の効力は及びません(商標法26条)。
先使用権
全国的によく知られている他人の商標に類似する商標を登録することはできないと前述しましたが、間違って登録される場合もあり得ます。この場合、登録異議申立てや登録無効審判で登録が取り消されることが期待され、また、登録無効審判を請求しなくても、登録を無効にすべきものと認められれば、裁判上、商標権を行使することはできません(準特104条の3第1項)。
また、この場合の周知商標主には継続して自己の商標を使用する権利(先使用権)が裁判上認められます(商標法32条)。
商標権の権利範囲
商標権は対世的な独占排他権であり、独占的に使用する権利と他人の使用を排除する権利から成ります。
独占的に使用する権利は、登録商標と同一の範囲であり、他人の使用を排除する権利は、登録商標の同一及び類似範囲です。
登録商標と類似する範囲についても事実上の使用する権利はありますが、法律上認められているわけではなく、権利の抵触関係にある場合などには使用できないこととなります。
権利の抵触
他人の先願商標に類似する商標を登録することはできないと前述しましたが、間違って登録される場合もあり得ます。この場合、登録異議申立てや登録無効審判で登録が取り消されることが期待され、また、登録無効審判を請求しなくても、登録を無効にすべきものと認められれば、裁判上、商標権を行使することはできません(準特104条の3第1項)。
しかし、登録後5年を経過すると、継続使用により一定の信用が化体し、瑕疵が是正されたとして、登録無効審判を請求できなくなります(商標法47条)。
この場合、他人の先願登録商標と自己の後願登録商標とは権利範囲が抵触することになります。先後願による優劣はなく、いずれも自己の登録商標を使用する権利を有し、相手方の登録商標に類似する範囲での事実上の使用する権利はなくなります。
商標権の範囲の認定
商標権の範囲は、商標の類似範囲についての指定商品・指定役務の類似範囲から成ります。
商標の類否は、商標の外観・称呼・観念の類否に基づき全体観察し、商標の周知度や具体的な取引実情を勘案して裁判上決せられるものであり、定量的に確定しているわけではありません。指定商品・指定役務の類否も、取引の実情において需要者が出所の混同を生ずるおそれがあるか否かを具体的な取引の実情を勘案して裁判上決せられるものであり、定量的に確定しているわけではありません。一般に、継続使用により商標に信用が化体し、周知度が高くなるほど類似範囲が広くなる傾向があります。
なお、商標登録前の審査段階では、商標の使用を前提としていませんので、取引実情を勘案することができないため、商品・サービスの類似範囲は、類似商品役務審査基準により判断され、商標の類似範囲は、需要者・取引者を想定し、外観・称呼・観念のいずれかが類似することによる商標全体の類否を判断します。
商標権の金銭的価値
商標は、創作物ではなく選択物であり、商標のデザイン的な部分に価値は認められません。したがって、使用されていない商標の価値はゼロです。継続使用により商標に信用が化体し、顧客吸引力を持つに至り価値を有することになります。
具体的には、商標権の侵害者が登録商標に類似する商標の使用により利益を得た額を損害賠償請求の訴額として請求します(商標法38条)。ただし、権利者が商標を全く使用していない場合は損害が発生していないとして請求は認められません。
商標権と競合的に主張すべき権利
商標権は対世効を有する絶対的権利ですので、商標権侵害の訴えが比較的認められやすい反面、権利範囲から外れる場合もあるため、権利範囲内かどうか微妙な場合には、商標権侵害と併せて、不正競争防止法に基づく訴えを提起します。商標権と不正競争防止法に基づく権利とは保護すべき範囲が重複しているので互いに補完的な役割をします。
両権利は別個独立の権利ですので、各々別個に損害賠償を請求します。ただし、認められる損害賠償額はそのうちの最も高額になる請求のみであって、重畳的に認められるわけではありません。